聖号十念

新緑の季節となり、伸びゆく木々に命の力強さを感じる時節となりました。

さて、ここ数年、「上の世代が生きた時代」をテーマに様々な作品に触れることを心がけております。逝去されたご本人や、ご遺族がどのような時代を生きて来たのかを少しでも知りたいと思ったためです。今はネットで古い作品にも触れることができるのがありがたいです。先日は子供の頃トラウマになった黒澤明監督の「乱」を鑑賞しましたが、CGがない時代の大作で大変な迫力でした。

様々な作品のうち、印象的だった二作品をご紹介させていただきます。(画像にAmazonへのリンク有)

「この世界の片隅に」こうの史代さんの漫画を原作にしたアニメ作品です。1940年代に嫁いだ主婦の日常と戦争との関りを、レシピや作業手順を交えて細やかに描いています。私は45歳ですが、戦争が取り上げられた作品は悲惨な面のみを切り取ったものが多く、市井の人々の日々の暮らしについて余り想像したことがありませんでした。結婚に関しては現代から見たらびっくりするような当時のしきたりもあります。20代の私だったら開始20分で激怒し、義姉の方に感情移入していたと思います。フェミニズムの極致から見れば、主人公の人生は主体性がないものかもしれませんが、社会保障の薄い時代では経済的に合理的な判断であるとも言えます。家電がないので朝早くから何もかも手作業の生活を微に入り細に入り追っていると、昔の女性の労働量に頭が下がります。また、「母ちゃんを楽にさせてやりたい」と志した子供世代のエンジニアもいたのだろうな、と想像が広がります。

主人公のすずさんが御存命であれば97歳。阿弥陀様は「大変な時代をここまで良く頑張ってこられましたね」とお声がけくださることと拝察します。

もう一つは「安井かずみがいた時代」という書籍です。

私がまだ生まれる前、1960年代の少女漫画から抜け出たような容姿の安井かずみさん。一世を風靡した作詞家だったそうです。戦後の高度成長期にヨーロッパのファッションや生活スタイルを日本に持ち込んだ立役者でもあり、英語もフランス語もペラペラ。「女性が自立して稼ぐ」ロールモデルでもありました。残念ながら1994年に55歳で早逝されたそうです。書籍では、安井かずみさんの周囲にいた様々な方が彼女のエピソードを語る章立てとなっており、お会いしたこともない安井かずみさんの魅力や人柄が浮かび上がってきます。まるで亡き方のエピソードをご遺族ご朋友からお聞かせいただいている時のような心持ちになりました。

また、書籍の随所に安井かずみさん作の歌詞が配置されており、検索して当時の流行歌を聴くことができました。昔はできなかったことです。私が大好な映画「嫌われ松子の一生」に使われていた和田アキ子「古い日記」が安井かずみさん作詞だと知り、さらに最近耳に着いた新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」が古い日記のオマージュだと聞き嬉しい気持ちになりました。現代私たちが当たり前のように受け取っている文化の結晶は、実は脈々と受け継がれ積み重ねられてきたもであったのですね。母にも尋ねてみたところ、当時の世相や音楽シーンについて大いに語ってくれました。

現代は、政策や予算分配などで何かと世代間の分断が取沙汰されていますが、上の世代の方々が生きた時代を知ることは理解と思いやりに繋がります。また、「人を悪しざまに罵るのをやめ、想像力をもって他者を思いやる」ことは仏道修行の一つです。お若い方には是非昔の作品にも興味をもっていただければと存じますし、ベテランの方には昔懐かしい時代を是非振り返っていただければありがたく存じます。合掌

如来大慈悲 哀愍護念 南無阿弥陀仏