気温の上下するありふれぬ初夏、皆様いかがお過ごしでしょうか。

私事ではございますが、先だっての3月21日の彼岸法要の後日、気が抜けたのか夜道で転んで捻挫をしてしまい、近日やっと痛みも和らいできたところでございます。
怪我をした当初は何をするにもゆっくりになってしまい、仕事の遅い自分を情けなく感じつつ、事務作業ならできると気を取り直したりもしました。ですが、だんだん「これはおみ足の悪い檀信徒の方の気持ちを知る良い機会ではないか」と思うようになりました。何とかまっすぐ歩けるようになった時点で、段々畑ならぬ段々お墓の境内庫裏を一周してみたところ、右手が利かないと緩い階段すら降りるのが怖いこと、卒塔婆を建碑するのも思うようにいかないこと、畳の上ではあぐらはかけても正座は辛いこと、それでも女性として少しでも美しい姿勢を保とうとすると腰や他の部分に大きな負担がかかることなどが文字通り骨身に沁みました。また、行事の際に荷物を持ってくださった方への感謝の気持ちも沸きました。怪我の功名とは良く言ったもので、今後自坊でより良い時間を過ごして頂くべく、施設や備品を整えて行くヒントを多く頂いたように思います。

そのような事情につき間も空いてしまいましたが、今回は本年1月6日に参加させて頂きました「山の手七福神巡り」という企画についてお話をさせて頂きます。彼岸法要でも一度ご報告させて頂きましたが、この行事は、「茶坊えにし」という浄土宗東京教区浅草組界隈の寺院が中心となって、一般の方にお寺に親しんで頂くことを目標とした団体が主催したものです。引率のお坊さんに急にご法要の予定が入ってしまった為、ツアーの起点に近い私がお手伝いに上がらせていただくこととなりました

今回の「山の手七福神巡り」はお坊さんと一緒に各寺院で楽しく仏教の勉強を、という趣旨のもと、6つのお寺に祀られている7つの七福神の御朱印を集めてみましょうという、俗にいうスタンプラリーでした。御朱印というのは、お寺ごとに一つ一つ違う大きな朱の印鑑です。当山の御朱印は、枕経やお通夜の際にお渡しする、お戒名を記したお札に刻印しておりますので、昨今ご葬儀をあげられた方はご記憶かもしれません。

昔の時代からスタンプラリーというのは人気のイベントだったようで、最近ではポケモンスタンプラリー、ガンダムスタンプラリーと、現代にもその系譜は続いておりますが、七福神ラリーも根強い人気のある行事でございます。そもそもの由来は、500年前の室町時代に始まった日本ならではの風習で、神道・仏教・儒教の神様や中国の仙人のご利益のいいとこ取りをしてしまおうというたくましい行事でした。従って、「山の手七福神」が祀られている寺院も宗派はバラバラ、浄土宗寺院も一か所のみです。他の宗派を勉強することもまた、自分の宗派を知る手がかりとなりますので、良い機会を頂きました。

当山近辺の七福神は「山の手七福神」ですが、他の七福神として東京では隅田川七福神・浅草七福神・日本橋七福神など十種類以上があり、当時の人気がうかがい知れます。
残念ながら期間限定で、下見で行程が3時間ちょっと、新年の寒い時期ということで、当山あげて参加者を募ることはできませんでしたが、皆様の代理ということで色紙の形で集めさせて頂きました。
実際の行程は以下の通りです。

今回は、清正公(覚林寺)様をスタートとし、終点を浄土宗の蟠龍寺とさせて頂きました。

こちらが御朱印を集めさせていただきました色紙です。現在ご本堂入口に掲示させて頂いております。
一つ一つの神様に、商売繁盛、家内安全など様々なご利益があり、七福神のうちどの神様を最初にお参りするかでご利益が違うと言われているのですが、今回は清正公・毘沙門天様からお参りさせて頂きましたので、「悪霊退散・家内安全」、皆様に悪いものが寄り付かぬよう、元気でお過ごし頂けますようお祈りをさせていただきました。
以降はそれぞれのご寺院について些末ながらご説明をさせて頂きます。

清正公様はご近所のご寺院でもありますが、元々は熊本の戦国大名だった加藤清正公をお祀りするお寺です。2年前の熊本大震災に際しまして東京浄青でも熊本へお参りする機会がございました。元は秀吉公の親戚の名称でお城作りの名人、熊本城にも清正公神社がありますが、かてて加えて後世作の大天守閣は崩壊したにも関わらず清正公の造成された小天守閣は熊本震災でもこゆるぎもしなかったそうでございます。さすがお城作りの名人ということで、皆様が熊本をお訪ねのことがあれば是非ご覧いただければと思います。

2番目にお参りしたのが瑞聖寺様の布袋尊です。この方はもともと禅宗のお坊さんで、豊かな暮らしや家内安全のご利益がございますが、黄檗宗のお寺さまに祀られております。黄檗宗とはちょっと聞きなれない宗派でございますが、江戸時代に伝わった宗派で、宗祖はインゲンマメのもとになった隠元というお坊さんです。

3番目にお参りしたのは妙圓寺様、こちらには寿老人・福禄寿という二つの神様がお祀りされております。寿老人はもともと仙人なので、頭の骨が縦に伸びて人間離れした骨格です。福禄寿も道教という中国の古い教えの神様で、お二人合わせて長生きや幸運の神様と言われております。

4番目にお参りしたのが大圓寺様、こちらには大黒天さまがお祀りされております、先ほどの毘沙門天もそうなのですが、「天」が付く方はもともとインドの神様が元になっております。商売繁盛の神様と言われております。

5番目にお参りしたのが目黒不動尊とも呼ばれる瀧泉寺様、エビスビールの恵比寿様が
お祀りされております。この方だけが日本古来の神道からの神様でございまして、こちらも商売繁盛の神様です。境内地が大変広く見どころの多いご寺院でした。

6番目にお参りしたのが浄土宗、やっと浄土宗が出てきましたが、私の先輩のお寺の蟠龍寺様でございます。同じ浄土宗ということで、堂内の写真をお許しいただけました。
弁財天をお祀りの寺院ですが、副住職ご本人も芸能に深いご理解をお持ちの元、楽器の演奏者としても造詣の深い方だそうで、現在も多くの行事を執り行っていらっしゃいます。

以上、駆け足ではございましたが、山の手七福神ツアーのあらましをご報告させて頂きました。日本という国は、外国から良いものを取り入れ、それを消化して良いものにしていくという長い歴史がございます。この七福神という風習を通じ、日本の逞しさを改めて思い起こして頂ければ幸いでございます。

今回のお話、浄土宗や阿弥陀様とはほとんど関係ないのではないかというお言葉もあるかと思いますが、阿弥陀経では、四方八方全ての仏様が阿弥陀様の教えを応援してくださっておられます。なぜなら、皆様の誰一人として決して見捨てず、おひとりおひとりの心を汲み取りたいと思っているのが阿弥陀様だからです。七福神のようにすぐご利益を下さることはないかもしれませんが、それでも、迷い苦しみつつもこの世を生き、念仏を唱える私たちを支え、守りたいと思っているのが阿弥陀様なのです。
とはいえ、「ついお念仏しながら家族の幸せなどを願ってしまうのですが、念仏以外の現世利益を神様にお願いしたら浄土宗ではダメなんでしょうか」というお尋ねも頂くこともございますが、浄土宗のお檀家様だからといって他の神様仏様にお参りして罰が当たるということは決してございません。身内の無事を願う気持ちを阿弥陀様は分かっておられます。それでも、最後はお念仏に戻ってきて下されば、何より嬉しく思ってくださいます。

今回は観光ツアーのようなお話になりましたが、私が皆様方のご多幸を七福神様にお願いしたのと同じように、皆様方が他の方の為にお祈りされることもまた尊いことでもございます。普段お付き合いのない方のことをお祈りしても、直接にはご利益がないように見えますが、自分に直接見返りがなくても誰かのために何かをさせて頂く、というのは浄土宗だけでなく仏教すべてにおいて貴重な修行と言われております。
この七福神巡りを通じて、私自身も修行を積ませて頂いたように思います。
どうぞ皆様の大切な方やご先祖様に手向けるお気持ちの一端を、お墓参りに来られない方、仏様とご縁を持たれない方々の為にもお手向け頂きまして、日々南無阿弥陀仏とお称えいただければ幸いでございます。
合掌