聖号十念

酷暑もようやく緩んでまいりました。9月23日の彼岸法要の準備の中、今月は少し早めの投稿とさせていただきます。日々の感染者数は減少基調となっておりますが、未だ警戒中の方も多く、彼岸法要のお客様はまばらになりそうです。一方、各家の回忌法要は増えており、「家族だけならまあ良いか」という世の中の風潮の変化を感じております。

本日は久方に近隣のお花屋さんの写真です。

皆様が乱視なのでもモニターの調子が悪いのでもありません。悪いのは私の写真の腕でございます。

黄色く丸い花をお月様に見立てるとは、なんてオシャレなのでしょう。人間の想像力がもたらす「見立て」は、昔からこのようにして生活に彩りを添えてくれたであろうな、と感じました。

想像力、といえば、今流行のSDGsがらみで、こんな話題を見かけました。

島根県の野菜農家「株式会社うちの子も夢中です」さんによる、Twitterのスレッドです。

背景を想像するに、学生さんが「SDGsの研究のために、規格外品をタダで(もしくは極めて安価で)ください」と言われたのだと思います。

「フードロスをなくそう」という建前で、少し形の悪い作物をまあまあ安価で叩き売るという商売、確かに私も見かけたことがあります。一見いいことをしているように見えますが、「安かろう悪かろう」が当たり前になってしまうと、正規品を効率よく流通経路に乗せている農家の方々の時間や工夫や努力を踏みにじることに繋がってしまうということです。私は僧侶であると同時に日々の買い出しも担っているので、消費者として深く考えさせられました。色々なものが値上がりしている中、10個198円を固守している卵を見るとありがたいとは思いますが、同時に誰にしわ寄せが行っているのだろうと申し訳ない気持ちにもなっていたからです。

特に今の時代、「ものの値打ち」というものが分かりにくくなってきたなと感じます。グローバル化とインターネットにより、世界中のものの値段を知ることができるようになり、年収や時給など、他人の台所が透けて見えるようになりました。昔は分かりやすいお金持ちといえば貴族や財閥の御曹司、石油王でしたが、今はYoutuberですね。「仲間とゲームしている」だけで札ビラが天から降ってくるのを目の当たりにすれば、真面目に働くのがバカバカしくなり、皆様我も我もとなるのも無理はない気がします。しかしこの動画によって一体何が産み出されているのだろう、あっという間にレッドオーシャンになるのでは、と老婆心にも見舞われます。一方、音楽や映像作品などはサブスク(定額で使い放題のサービス)が増加し、一作品あたりの値段が限りなくゼロに近づいています。アーティストには辛い時代のようですが、オンラインのコンサートチケットは世界中無限に売ることができるので、無料のPVは広告宣伝なのでしょう。ニューヨークのハンバーガーが4000円だったり、深圳の不動産が年収の60倍(バブル期の日本で18倍)だったり、裏付けのない資産が一昼夜で乱高下したり、毎日ビックリするような情報には事欠かない世の中となりました。

本年3月の記事で、「お坊さんは食前に、『果たして自分にその食事を受けるだけの徳が具わっているかどうか』を考えてみる」と申しましたが、個人の力ではどうにもならない景気や物価の中、自分が4000円のハンバーガーに値するかを真摯に考えたら脳がバグって参りました。考えてもきりがない、本当の正解は神仏のみぞ知る問題なのかもしれません。

しかしながら、日々口に入るものを当たり前のものとせず、生産流通を担う方々に感謝を続けることは仏の道に叶う行いです。また、世界で起きる様々な物事に興味を持ち、自分の頭で考えた上で「自分にとって何に値打ちがあるのか、それは何故なのか」を自問自答するのは智慧を磨く修行となります。そうした方が増えることで、悪縁に遭って身を持ち崩すという事案も減るのではないかと思います。

皆様方に阿弥陀様をはじめ、御仏のお護りが常にましますようお祈りしてまいります。合掌

如来大慈悲 哀愍護念 南無阿弥陀仏