蝉たちが祭りとばかりにやんやと騒ぐ季節となりました。連日の猛暑の中、皆様ご用心召されつつお過ごしのことと拝察いたします。

前回の記事にて、「お手紙を送ってはいかがですか」とお勧めいたしましたが、先日文具屋さんにお礼状を買いに行ったところ、

色とりどりの様々な暑中見舞いの葉書を見ることができました。写真だと分かりづらいのですが、キラキラ光る塗料が使われていたり、飛び出して見える絵柄があったりと、驚きで思わず笑みが漏れました。デザイナーの方々のおかげで葉書も日々進歩しているのですね。

さて、本日は「利剣名号(りけんみょうごう)」と題しお話をさせていただきます。

(『利剣名号軸』浄土宗大本山 百万遍知恩寺所蔵)

「名号(みょうごう)」とは、文字通り「阿弥陀様のお名前」という意味です。文字の端々が「剣」のように尖っており、「書」というよりグラフィックデザインのようですね。上の掛け軸は、「空海上人(弘法大師)」作をもとにしたものです。

京都にある浄土宗の大本山、「百万遍知恩寺」のホームページによりますと、

元弘元年(一三三一)第八世善阿空圓上人の時、地震がもとで都に疾病が蔓延しました。それに心を痛めた後醍醐天皇の勅命を受けて弟子らと共に七日七夜にわたって百万遍の念仏を称えながら大念珠繰りをしたところ疫病が治まったことから「百萬遍」の号が下賜されました。(『百万遍知恩寺の歴史』より)

当山の第八世善阿空圓上人が宮中の秘蔵であったこの掛け軸を後醍醐天皇より賜ったと伝わります。(『宝物・利剣名号』より)

とのことです。それ以来、「疾病退散の南無阿弥陀仏」として、お守りやお札にもなっております。

さて、「利剣」という言葉ですが、由来は「降魔偈(ごうまげ)」というお経の一節です。浄土宗では、ご葬儀を中心としたご法要でお唱えしております。

『門門不同八万四(もんもんふどうはちまんし) 為滅無明果業因(いめつむみょうかごういん)利剣即是弥陀号(りけんそくぜみだごう) 一声称念罪皆除(いっしょうしょうねんざいかいじょ)』

『八万四千(数えきれないほど)にも及ぶ法門(様々な宗派や教え)には同じものはないけれども、全ては(四苦八苦のもととなる)『無明』という状態を滅し、煩悩を断つものです。その中にあって『南無阿弥陀仏』と一声でも称えれば、利剣が煩悩を断ち切るように、罪は皆除かれます』という意味です。

昨年一年の日本で、この世を旅立たれた方は137万人余り、一日平均で3770名おられます。ですが時節柄、ご法要に参列できず、同じ場所で気持ちを分かち合うことができずに辛い、というお声も届いております。私も他県のご葬儀をお勤めすることができず、申し訳ない思いでおります。ですが、たとえ離れた場所であっても、「南無阿弥陀仏」とお唱えくだされば、阿弥陀様はそのお声を漏らさず聞き届け、亡き方の元にお届けくださいます。そしていつの日か、極楽浄土におられる皆様のもとへご自身を導いてくださるのが阿弥陀様という仏様です。

ご葬儀の時刻でなくとも構いませんので、どうぞ亡き方へお気持ちを手向けてお念仏をお唱えください。

一日でも早く、利剣により災いが打ち払われますよう、ご祈念いたしております。合掌

天災地変 殉難横死 三界萬霊 有縁無縁 乃至法界 平等利益 南無阿弥陀仏